大阪地方裁判所 平成7年(ワ)7482号 判決 1997年12月25日
大阪府守口市東郷通二丁目二一番地
原告
山岡金属工業株式会社
右代表者代表取締役
山岡俊夫
右訴訟代理人弁護士
松本勉
兵庫県三田市テクノパーク一二番地の五
被告
ニチワ電機株式会社
右代表者代表取締役
岡田徹
兵庫県西宮市甲陽園目神山町二三番三七号
被告
岡田徹
右両名訴訟代理人弁護士
阪口徳雄
同
津田浩克
右輔佐人弁理士
坂上好博
同
葛西〓二
主文
一 被告ニチワ電機株式会社は、別紙イ号ないしリ号各図面記載のグリドルテーブル及び別紙ヌ号図面記載のグリラーテーブルを製造し、譲渡し、又は譲渡のために展示してはならない。
二 被告ニチワ電機株式会社は、その本店、営業所及び工場に存する別紙イ号ないしリ号各図面記載のグリドルテーブル(完成品)及びその半製品を廃棄せよ。
三 被告ニチワ電機株式会社は、原告に対し、金四五九万七三〇〇円及びこれに対する平成七年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告の被告ニチワ電機株式会社に対するその余の請求及び被告岡田徹に対する請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用については、原告と被告ニチワ電機株式会社との間では、原告に生じた費用の二分の一を被告ニチワ電機株式会社の負担とし、その余を各自の負担とし、原告と被告岡田徹との間では、全部原告の負担とする。
六 この判決は、第三項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 原告の請求
一 主文第一項と同旨
二 被告ニチワ電機株式会社(以下「被告会社」という)は、その本店、営業所及び工場並びに別紙販売先一覧表記載の場所に存する別紙イ号ないしリ号各図面記載のグリドルテーブル及び別紙ヌ号図面記載のグリラーテーブル(完成品)及びその半製品を廃棄せよ。
三 被告らは、原告に対し、連帯して金二六七〇万一三二五円及びこれに対する被告会社については平成七年八月一日から、被告岡田徹(以下「被告岡田」という)については平成七年七月三〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告会社は、別紙謝罪広告を別紙掲載条件記載の新聞に同記載の条件にて掲載せよ。
五 仮執行宣言
第二 事案の概要
一 事実関係
1 原告の権利
原告は、後記(一)記載の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件登録意匠」という)を有しており、本件意匠権には同(二)記載の類似意匠の意匠権(その類似意匠の意匠登録を受けた意匠を「本件類似意匠」という)が合体している。
(一) [登録番号 第八九四四〇八号
意匠に係る物品 クッキングテーブル
出願日 昭和六二年三月九日(前実用新案出願日援用・意願平三-一四四三四号)
登録日 平成五年一二月二四日
登録意匠 別添意匠公報<1>参照
(二) 登録番号第八九四四〇八号の類似1
意匠に係る物品 クッキングテーブル
出願日 平成四年二月四日(意願平四-二九五五号)
登録日 平成六年六月八日
登録意匠 別添意匠公報<2>参照
2 被告会社の行為
被告会社は、平成五年一二月二四日以前から、別紙イ号ないしリ号各図面記載のグリドルテーブル(以下、順に「イ号物件」、「ロ号物件」、「ハ号物件」、「ニ号物件」、「ホ号物件」、「ヘ号物件」、「ト号物件」、「チ号物件」、「リ号物件」という)を製造、販売している(争いがない)。
原告は、被告会社は別紙ヌ号図面記載のグリラーテーブル(以下「ヌ号物件」という)も製造、販売していると主張するところ、被告らは、ヌ号物件は販売していない旨主張するが、平成六年四月一日現在の被告会社の価格表(甲一五)に掲載されていることが認められるから、少なくとも被告会社がヌ号物件を製造、販売するおそれはあるものといわなければならない。
なお、イ号物件ないしヌ号物件(以下「被告物件」という)は、商品名がグリドルテーブル又はグリラーテーブルであるが、弁論の全趣旨によれば、本件登録意匠に係る物品であるクッキングテーブルと実質的に同一のものであると認められる。
二 原告の請求
原告は、被告会社が製造、販売している被告物件の各意匠(以下、順に「イ号意匠」、「ロ号意匠」、「ハ号意匠」、「ニ号意匠」、「ホ号意匠」、「ヘ号意匠」、「ト号意匠」、「チ号意匠」、「リ号意匠」、「ヌ号意匠」といい、これらを総称して「被告意匠」という)は、本件登録意匠に類似し、その製造譲渡等は本件意匠権を侵害するものであると主張して、
被告会社に対して、意匠法三七条一項に基づき被告物件の製造譲渡又は展示の差止め、同条二項に基づき被告物件(完成品)及びその半製品の廃棄を求めるとともに、同法三九条二項に基づき損害賠償として二六七〇万一三二五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年八月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払、同法四一条、特許法一〇六条に基づき謝罪広告の掲載を求め、
被告岡田に対して、商法二六六条の三に基づき被告会社と連帯して右と同額の損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年七月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求めるものである。
三 争点
1 被告意匠は、本件登録意匠に類似するものであるか。
2 被告物件の製造販売等が本件意匠権を侵害するものである場合、被告会社の代表者である被告岡田は、商法二六六条の三に基づく損害賠償責任を負うか。
3 被告らが原告に対して損害賠償責任を負う場合に、原告に対して支払うべき損害金の額等。
第三 争点に関する当事者の主張
一 争点1(被告意匠は、本件登録意匠に類似するものであるか)について
【原告の主張】
以下のとおり、被告意匠は本件登録意匠に類似するものである。
1 本件登録意匠は、次のとおりの基本的形状及び具体的形状からなる(調理者側を正面、客側を背面とする)。
(一) 基本的形状
(1) 直方体の調理台(本体)の正面側に、電源等操作機能を備えている。
(2) 本体上部に調理プレートを設け、調理プレートの奥(本体背面寄り)に排気筒を、左右に吸気筒を各設けている。
(3) 本体正面以外の三方(背面・両側面)に、水平にサイドテーブル(天板)を設けている。
(4) 本体底面部の四隅に、キャスターを取り付け、移動を容易にしている。キャスターのうち正面側の二輪には、ストッパーを付け、固定できるようにしている。
(5) 調理プレートの左右両側に垂直に設けられた側板に接する形で、調理プレートの本体背面側よりフードが設けられている。
(二) 具体的形状
(1) 本体正面部のエプロンプレートの位置から本体底面部までを三分割し、上部より三分の一と下部より三分の二の位置を基準として上部の中心位置には火力調節機能付き点火用スイッチが設けられ、下部の上方には電源スイッチが設けられている。
(2) 調理プレートの奥(本体背面寄り)の排気筒は、プレートと段差を付けて水平に設けられ、左右の吸気筒は、排気筒より若干高い位置に設けられている。
(3) フードは、調理プレートの背面側より立ち上がり、そこから一八・九度の傾斜で正面側(手前側)に向かって、調理台の奥行(サイドテーブル分は除く)の約二分の一、調理プレートの背面側約三分の一程度までを覆っている。なお、フードには透明耐熱強化ガラスを使用している。
2 イ号意匠及びロ号意匠は同一であり(ロ号物件はイ号物件より電気容量、加熱出力等が大きいだけである)、次のとおりの基本的形状及び具体的形状からなる。
(一) 基本的形状
(1) 直方体の調理台(本体)の正面側に、電源等操作機能を備えている。
(2) 本体上部に調理プレートを設け、調理プレートの奥(本体背面寄り)には集塵機用フィルターを設けている。
(3) 本体正面以外の三方(背面・両側面)に水平にサイドテーブル(天板)を設けている。
(4) 本体底面部の四隅に、自在式のキャスターを取り付け、移動を容易にしている。キャスターのうち正面側の二輪には、ストッパーを付け、固定できるようにしている。
(5) 調理プレートの左右両側に垂直に設けられた側板に接する形で、調理プレートの本体背面側よりフードが設けられている。
(二) 具体的形状
(1) 本体正面部の調理プレートの位置から本体底面部までを上部・下部に均等に二分割し、上部の上方には温度調節機能等の操作装置、左側には油受け(ダストボックス)が設けられ、下部の上方には電源スイッチが設けられている。
(2) 右(1)の油受けの設置位置には長方形に穴を開け、また、調理プレート奥(本体背面寄り)の集塵機用フィルターは、プレートと段差をつけ、更に角度をつけて設置されている。
(3) サイドテーブルは本体背面部に設けられた長方形の背面天板と、本体両翼に設けられた台形の側天板との三部材で構成されている。
各天板にはL字型の金具をつけ、水平状態から下方垂直方向へ九〇度の折り畳み式にし、更に、折り畳んだ状態で側天板を上方に引っ張ることによって簡単に側天板を取り外すことができる抜き差し可能型にしている。
(4) フードは調理プレートの背面側より立ち上がり、そこから約二五度の傾斜で正面側(手前側)に向かって、調理台の奥行(背面天板分は除く)の約二分の一、調理プレートの背面側より約三分の一程度までを覆い、更に調理プレートと水平に調理プレートの正面側(手前側)約三分の一程度まで延びている。なお、フードには透明耐熱強化ガラスを使用している。
(5) 外形寸法は、間口一二六〇mm、奥行一一二〇mm、高さ一一五〇mmであり、グリドル板寸法は、間口六二六mm、奥行五六〇mmである。
3 イ号意匠及びロ号意匠を本件登録意匠と対比すると、基本的形状は共通し、具体的形状において、本体正面部の操作装置の配置、本体上部調理プレート奥(本体背面寄り)に位置する換気装置(イ号意匠及びロ号意匠では集塵機用フィルター、本件登録意匠では排気筒)の角度と形状、フードの角度、イ号意匠及びロ号意匠ではフードが更に調理プレートと水平に正面側(手前側)に延びている点が相違している。
しかしながら、そもそもクッキングテーブルは、キャスターが取り付けられていることからも分かるように、調理場内で壁面等に固定して使用されるものではなく、ホテル等のパーティー会場でパーティー客の面前で調理し、サービスするために使用することが予定されている(原告の製品のパンフレットである甲九・一〇、被告物件のパンフレットである甲一一・一二)のであるから、客側からの観察すなわち背面側斜め上方からの観察に基づく美感、印象が重要であり、購入の決定要素とされる。
したがって、前記のようなイ号意匠及びロ号意匠と本件登録意匠との相違点は、些細なものであり、意匠全体として同一あるいは類似との印象を破るものではないから、イ号意匠及びロ号意匠は、本件登録意匠に類似するものである。
4 ハ号意匠ないしヌ号意匠は、それぞれ次の(一)ないし(三)の点においてイ号意匠及びロ号意匠と相違し、その余の点はイ号意匠及びロ号意匠と共通であるところ、これら相違点は、熱源、調理対象の区分、寸法、本体正面に設けられた操作装置の配置の違いであるから、ハ号意匠ないしヌ号意匠もまた、イ号意匠及びロ号意匠と同様に本件登録意匠に類似するものである。
(一) ハ号意匠及びニ号意匠
イ号物件及びロ号物件がシングルヒーターであるのに対し、ハ号物件及びニ号物件はダブルヒーターであるため、ハ号意匠及びニ号意匠(ニ号物件は、ハ号物件より電気容量、加熱出力等が大きいだけで、意匠としては同一である)は、イ号意匠及びロ号意匠と比べて、外形寸法のうち間口が三二〇mm広く、グリドル板寸法のうち間口が二七四mm広い。
また、本体正面に設けられた操作装置の配置が異なる。
(二) ホ号意匠ないしリ号意匠
イ号物件及びロ号物件は、熱源が電磁であるのに対して、ホ号物件ないしリ号物件は、熱源が電気であり、また、調理プレートに焼面・保温面の区分がなされている。寸法については、ホ号意匠及びヘ号意匠は、イ号意匠及びロ号意匠と比べて、間口が一〇mm狭く、高さが三五mm高く、グリドル板の間口が七六mm狭く、奥行が九〇mm短い。ト号意匠ないしリ号意匠は、イ号意匠及びロ号意匠と比べて、間口が四四〇mm広く、高さが三五mm高く、グリドル板の間口が二二四mm広く、奥行が九〇mm短い。
更に、いずれも本体正面に設けられた操作装置の配置が異なる。
(三) ヌ号意匠
ヌ号物件は、熱源が電気であり、また、調理対象が、イ号物件はステーキであるのに対して、焼鳥・シーフードである。
ヌ号意匠は、イ号意匠及びロ号意匠と比べて、外形寸法のうち間口が四四〇mm広く、火床寸法の間口が二〇四mm広く、奥行が四五〇mm短い。
また、本体正面に設けられた操作装置の配置が異なる。
5(一) 被告らは、被告意匠が基本的形状において本件登録意匠と共通することを認めながら、具体的形状における相違点として、調理台正面や操作盤等のデザイン、調理台本体上面の形状、フードの形状の相違を挙げるが、これらは、いずれも意匠上の重要な差異ではなく、無視されるものである。
(1) そもそも本件登録意匠や被告物件に係るクッキングテーブルの意匠の類否の判断においては、前記3のとおり、背面側斜め上方からの観察に基づく美感、印象が重要であるし、正面にダイヤルをいくつ配置するか、温調表示器を設けるか否かなどはいかようにも選択できるものであるから、調理台正面や操作盤等のデザインの相違は、意匠の類否判断に当たっては無視される。
(2) クッキングテーブルは、背面側斜め上方から観察することが予定されているから、調理台本体上面の相違が意識されることは全くない。しかも、背面側(客側)から透明のフードが立ち上がっているので、調理台本体の上面の相違はなおさら目立たないようになっている。
(3) 本件登録意匠におけるフードは、透明で、調理プレートの背面側より立ち上がり、そこから一八・九度の傾斜で正面側(手前側)に向かって、調理台の奥行の約二分の一、調理プレートの背面側約三分の一程度までを覆っているのに対して、被告物件におけるフードは、立ち上がり角度が約二五度であり、途中で角度をつけ、若干、より手前側まで延びているという相違があるが、透明素材を用い、背面側より傾斜をもって立ち上がり、調理台の半ば辺りまでを覆っているという点において共通しているから、右の相違は類否の判断に当たっては無視されるものである。特に、フードの素材は透明であるため、被告物件において途中で角度をつけている点はあまり強調されない結果となっている。
(二) 被告らは、本件登録意匠の基本的形状を分解し、フード付き調理台(乙一)あるいはカウンター(サイドテーブル)付き調理台(乙五)が既に存在していたことをもって、フード付きカウンター付きクッキングテーブルは本件登録意匠の出願前に既に陳腐であった旨主張する。
しかしながら、本件登録意匠のフードの形態・材質(透明なものを利用)やサイドテーブルの形態は、それ自体乙第一、第五号証に示されたものとは全く別のものであり、異なった美感・印象を与える意匠である。また、フード付きクッキングテーブル又はサイドテーブル付きクッキングテーブルがそれぞれ従前から存したとしても、本件登録意匠は、キャスター付き調理台に、フード及びサイドテーブルの両方を組み合わせることで全く新しい形態を生み出したところに意味があり、保護されるべき意匠と認められたのである。
(三) また、被告提出の乙第二ないし第四号証の各意匠公報記載の意匠中には、本件登録意匠の前記基本的形状を同時にすべて備えた形態のものはない(乙第二号証のものはフードを欠如し、乙第三号証のものはサイドテーブルを欠如し、乙第四号証のものはフード及びサイドテーブルの形状が相違する)。
乙第六ないし第一一号証(各枝番を含む)の各意匠公報の物品は、いずれも壁面に向かって固定的に設置されて使用されるものであるため、意匠上の特徴はすべて正面のみに集中することとなるのであって、本件のクッキングテーブルとは、その使用目的、使用状態が根本的に異なるから、本件における類否判断の参考となるものではない。
乙第一二ないし第一五号証(各枝番を含む)記載の意匠は、正面の操作盤のデザインが全く同じであるから、それにもかかわらず別個の意匠であるとして登録査定を受けたのであれば、これはすなわち、操作盤のデザイン自体は、意匠の要部ではなく、意匠の類否の判断に当たって無視されるものであることを示している。したがってまた、これらの意匠は本件登録意匠に類似するものであり、その意匠登録は本来無効のものである。仮に、無効でないとしても、乙第一二号証の意匠が本件登録意匠に類似しないとされたのは、サイドテーブルのR部分の形態上の差異によるものと解されるから、被告意匠のようにサイドテーブルに限ってみても本件登録意匠と全く同じ形態上の特徴を備えている意匠は、容易に本件登録意匠に類似するとの判断が導かれる。
【被告らの主張】
以下のとおり、被告意匠は、本件登録意匠に類似するものではない。
1 本件登録意匠は、次のとおりの基本的形状及び具体的形状からなる。
(一) 基本的形状
A 調理台本体は、直方体で、上面に平板の調理プレートがあり、正面側に器具操作部を配している。
B 調理プレートの上面部外周は、正面側以外の三方が上部左右側壁及び上部背面壁によって囲まれている。
C 調理台本体の上端から三方に水平に天板が連設されている。
D 調理台本体の調理プレートの上方後半部(背面側)にはフードが被さっている。
一般に、クッキングテーブルの形態的特徴は、物品の輪郭と見やすい部分の表面形態の基本構成とによって決定されるところ、右C及びDは、クッキングテーブルの輪郭を決定づける要素であり、A及びBは、右輪郭内に表現される物品主要部としての調理台本体の正面及び上面の基本構成である。
なお、原告は、基本的形状として、キャスターに関する構成を挙げているが、キャスター付き調理器は周知であるから、意匠の類否判断の基礎となる構成として捉えるほどの形態要素とはいえない。
(二) 具体的形状
A-<1> 調理台本体の正面に、調理プレートの前縁に続く態様で横長のエプロンプレートが取り付けられ、その両端はブラケットによって前記調理台本体の正面に支持されている。
A-<2> 調理台本体の正面の上部三分の一の横長矩形域の中心に、火力調節つまみが設けられている。
A-<3> 調理台本体の横幅、高さ(キャスターを除外した天板までの高さ)及び奥行の寸法比は四対四対三・五である。
A-<4> 調理台本体の左右の側面上部で天板の下方に、横長の大きな開口が設けられている。
B 調理プレートの上面部外周を囲む三方の壁のうち、左右側壁は内側に開放するスリット部を有する吸気筒であり、背面壁は上面に多数の排気口を開口させた排気筒となっている。
C 天板は前縁(正面側)コーナ部及び後縁(背面側)コーナ部が共に四五度に切除されている。
D フードは、調理台本体の側板上端から外側にずれた位置(右吸気筒の外側縁)から上方に突出する一対の台形状の側板と、これら側板の後方(背面側)の傾斜辺相互間に架設された透明板とからなる。
E フード、調理プレート並びに調理台本体の上部左右側壁及び上部背面壁によって囲まれる空間は、上方のフード部空間とそれよりも一回り小さい調理プレート上面空間とからなる。
2(一) 本件登録意匠に係る物品はクッキングテーブルであり、重要視されるのは正面斜め上方から見たときの趣味感であり、そのときに看者が受ける印象であるから、本件登録意匠の要部は、上面の形態及び正面の形態並びにこれらの結合形態にある。
すなわち、意匠とは物品の外観であり、いかなる物品であるかの特定はその機能を離れてはありえないところ、正面斜め上方からの視点によれば、調理面の構成、操作部の構成、フードの構成及びこれらの外観的関連性が一目瞭然となり、器具の使用者の関心事である操作性や使い勝手、使用者側に施されたデザインも明白に把握できるのである。これに対し、原告主張の客側からの観察すなわち背面側斜め上方からの観察では、クッキングテーブルとしての機能の全体(焼き肉等の調理ができること、ホテル等のパーティ会場において客の面前で調理するために使用できるものであること等)が視覚的に判断できない。また、本件登録意匠の物品は、クッキングテーブルのうちのフード付きカウンター(原告主張のサイドテーブル)付きクッキングテーブルという物品であるから、あくまでも前面(正面)が操作部等となった調理台本体を主要部とし、これに付加的にフード及びカウンターが取り付けられた物品であって、物品の機能からすれば、九〇%程度の機能が調理台本体に備えられ、その余りの一〇%程度の機能がフード及びカウンターに備えられたものである。意匠の類否判断は、一般需要者の立場から見た美感の類否に基づくべきものであり、本件登録意匠の場合、意匠公報によれば、操作つまみ類が配置された面をもって正面とされているから、この正面からの視点が意匠の要部を判断する上での主要な視点であり、操作つまみ、各種表示、調理面となる調理プレートが見え、需要者にとって強く印象づけられる部分が集中しているのである。
(二) 本件登録意匠の類似範囲の判断に当たっては、出願前の公知意匠、先願意匠、更には本件登録意匠に類似しないとして登録された後願意匠をも勘案して決定すべきである。
乙第一号証(実公昭四六-五二四九号実用新案公報)には、本件登録意匠と同様な構成のフード付き調理台が示されており、乙第五号証(実開昭六一-一五四八三五号公開実用新案公報)によれば、調理台本体の上端にカウンター又はテーブルを張り出させることは本件登録意匠の出願前に周知であったのであるから、フード付きカウンター付きクッキングテーブルであるという物品の付加的部分の構成のみをもって意匠の要部とすることはできない。かかるフード付きカウンター付きクッキングテーブルとして限定されるだけの形態は、本件登録意匠の出願時に既に陳腐であったといってよい。
また、審査の実例として、乙第六号証の1(登録第七八六七三五号)と2(登録第七八六七三六号)、第七号証の1(登録第七一〇三一九号)と2(登録第六八五〇一〇号)、第八号証の1(登録第八二二〇五二号)と2(登録第八二二〇六六号)と3(登録第七五〇〇一三号)、第一〇号証の1(登録第六七三五七五号)と2(登録第六七三五七七号)、第一一号証の1(登録第八三一八九七号)と2(登録第八三一八九八号)の各意匠公報記載の意匠は、それぞれ上面の形態が同一であるが正面の形態が相違するところ、相互に類似していないとして別個に意匠登録を受けていること、乙第七号証の3(登録第六八五〇一〇号の類似1)、第九号証の2ないし4(登録第六八八六一五号の類似1、類似2、類似3)、第一〇号証の3(登録第六七三五七七号の類似1)の各意匠公報記載の意匠は、それぞれ乙第七号証の2、第九号証の1(登録第六八八六一五号)、第一〇号証の2の各意匠公報記載の意匠と上面の形態が同一で正面の形態が近似しているところ、類似意匠の登録を受けていること、乙第一二号証の1~3(グリドルワゴンに係る意匠登録願等)及び乙第一三号証の1~3(意匠登録願等)記載の各意匠は、本件登録意匠及び本件類似意匠との天板の相違はわずかであるが、調理台本体の正面のデザインの相違が大きく評価されたが故に、類似しないとして登録査定を受けていること、乙第一二号証の1~3記載の意匠に対して第一四号証の1~3(グリドルワゴンに係る類似意匠登録願)記載の意匠、乙第一三号証の1~3記載の意匠に対して第一五号証の1~3(類似意匠登録願)記載の意匠は、それぞれ天板の後板の幅が異なるものの、調理台本体の正面の操作盤のデザイン及び調理台の周囲の形態の共通性が大きいが故に、類似意匠の登録査定を受けていること、乙第三号証(登録第九〇六六一三号)の意匠公報記載の意匠は本件登録意匠と調理台本体の正面形態が近似するが、調理面の形態及び天板の有無という相違が大きく評価されて、本件登録意匠は、乙第二号証(登録第七六四七二八号)の意匠公報記載の意匠との調理台本体の正面及び上面の形態の相違に加えて天板の形状の相違が大きく評価されて、それぞれ類似しないとして登録を受けていること、乙第一三号証の1~3記載の意匠は、調理台本体の正面の形態及び調理面の周囲の形態の相違が大きく評価されて、乙第三号証の意匠公報記載の意匠と類似しないとして登録査定を受けていることからすると、調理面を含めた調理台本体のデザインが大きく相違する意匠は、天板の形状が近似していても類似しないとの類否判断の基準が導き出される。
3(一) イ号意匠及びロ号意匠は、その基本的形状が本件登録意匠の基本的形状と共通しており、具体的形状は次のとおりである(別紙「イ号・ロ号参考図」参照)。
a-<1> 調理台本体の正面は、部分的な凹嵌部20及びハンドル等の突出部があるが、全体的には一様な平面で構成されている。
右凹嵌部20には操作部が設けられ、また、平面部には、下端に一対のサービス扉15、15、これと凹嵌部20との間にインバータ用フィルター7によって閉塞された矩形の吸引口、凹嵌部20とグリドル板2との間に帯板部21が、それぞれ設けられている。
a-<2> 操作部は、風量調節ダイヤル6及びシーソースイッチと、火力調節ダイヤル3及び温調表示器等を具備するコントロールパネル10とからなり、右凹嵌部20の傾斜壁面の略全域を占めている。そして、凹嵌部の左側にドレンパン5が設けられている。
a-<3> 調理台本体の横幅、高さ(キャスターを除く)及び奥行の寸法比は、四対四対三・五である。
a-<4> 調理台本体の左右側面は、一様な無開口板で構成されている。
b グリドル板2の上面部外周を囲む三方の壁のうち、左右側壁は垂直壁面であり、背面壁は、傾斜壁面であり、その略全域にわたる範囲に矩形の吸気口が開口し、集塵機用フィルターによって閉塞されている。
c 天板は、調理台本体の側面に沿うように折り畳むことができ、かつ取り外すことができる。
すなわち、天板は、調理台本体の側壁に取り付けられたブラケットによって支持されているところ、このブラケットは、調理台本体の側壁に取り付けられる直立片と、その上端部にて折り曲げ自在に連結される腕とからなり、直立片の上端の両側及び腕の上辺の両側にそれぞれ係合舌片が設けられ、腕を水平状態にすると、両者の係合舌片が直線状に連続するようになっている。天板は、二枚の側板と一枚の背面板との三つの部材で構成され、それぞれの下面には、一対の引掛金具が、調理台本体の側壁に取り付けられるブラケットに合わせて取り付けられ、ブラケットの係合舌片に取外し自在に嵌め込まれるようになっている。そして、天板の各板を外側に引き出すと、引掛金具と係合舌片の係合が外れて、天板を折り畳むことができ、その状態で天板を上方に引き上げると、引掛金具がブラケットから外れ、天板を取り外すことができる。
d フードは、強化ガラス板で構成され、一対の台形状の側板の上辺相互間及び後方(背面側)の傾斜辺相互間をそれぞれつなぐように二枚架設されている。
e フード部空間と調理プレート上面空間の横幅は同じに設定されている。
(二) イ号意匠及びロ号意匠を本件登録意匠と対比すると、具体的形状において次のような相違がある。
<1> 本件登録意匠の正面は、その上端からエプロンプレートが前方に突出しているのに対し、イ号意匠及びロ号意匠では、このようなエプロンプレートはなく、グリドル板2の前縁にそのまま調理台本体が連続している。
<2> 本件登録意匠の正面は、エプロンプレートの部分を除き全体的に一様な平面で構成されているのに対し、イ号意匠及びロ号意匠の正面は、火力調節ダイヤル3等の複数の操作つまみを具備する操作部、ハンドル付きのドレンパン5、サービス扉15、15、インバータ用フィルター7等を配置した構成であり、種々の機能部を備えている。
<3> 本件登録意匠の操作部は、エプロンプレートの下方の横長矩形平面部の中心に火力調節つまみが一つ配置されているだけであるのに対し、イ号意匠及びロ号意匠の操作部は、本体正面の中間より上寄りの位置に横長に形成された凹嵌部20の傾斜壁面に設けられており、右凹嵌部20は、本体正面の約五分の一の範囲を占め、看者に大きく印象づけられる形態要素であり、本体正面における他の部分と大きく異なる部分である。
<4> 本件登録意匠の調理プレートの上面部外周を囲む三方の壁は、前記のような複雑な形態であるのに対し、イ号意匠及びロ号意匠のグリドル板2の上面部外周を囲む三方の壁は、左右側壁の垂直壁面と背面壁の傾斜壁面とからなるシンプルな形態である。
<5> 本件登録意匠のフードは、一対の台形状の側板の後方(背面側)の傾斜辺相互間にのみ強化ガラス板(透明板)が架設されているにすぎないのに対し、イ号意匠及びロ号意匠のフードは、一対の台形状の側板の上辺相互間にも強化ガラス板が架設されている。また、イ号意匠及びロ号意匠では、一対の台形状の側板の上辺部分の位置が本件登録意匠に比べて台形の底辺中央寄りに位置する点でも相違するので、フードの形態が相違する。
<6> 天板が、本件登録意匠では取外し不可能であるが、イ号意匠及びロ号意匠では折り畳み自在かつ取外し自在である。
(三) 前記2において本件登録意匠の要部について主張したところに照らせば、本件登録意匠との類否判断に当たっては、基本的形状に付加される意匠的創作の類否に基づくべきであり、具体的形状の異同を重要視しなければならないところ、イ号意匠及びロ号意匠と本件登録意匠との前記(二)<1>ないし<5>の相違点は、いずれも看者の視覚に強く訴える部分における相違であるから、イ号意匠及びロ号意匠は本件登録意匠に類似しないというべきであり、相違点<6>をも勘案すればいっそう類似しないことになる。
すなわち、まず、前記(二)<1>ないし<3>の調理台本体の正面の形態の相違について、本件登録意匠の正面の形態は、エプロンプレートを備えた独特の形態ではあるものの、正面の平面部全域には何らの形態的特徴もなく、火力調節つまみが一つ設けられているにすぎないシンプルなデザインであるのに対して、イ号意匠及びロ号意匠の正面の形態は、エプロンプレートのような大きな突出部がなく、全体としては平板なイメージであるが、操作部が複数の操作つまみや操作ボタン、更には複数の表示部分を組み合わせた精巧なイメージを呈するものであり、また、比較的大きな範囲の凹嵌部20があり、サービス扉15等その他のデザイン要素も組み合わせた構成で創作要素の多いものであるから、これらの相違は、調理台本体の正面形態の創作思想の異同及び看者に与える趣味感の異同に決定的な影響を与える。
また、焼き肉用調理プレート自体は、周知の平板状であるから、調理台本体の上面の形態を特徴づけるのは、調理プレートの周囲の形態及びこれを囲むフードの形態であるところ、前記(二)<4>及び<5>の相違点は、調理プレートの周囲の形態について明確に区別できる相違であるし、調理プレートを囲むフード内の雰囲気は、本件登録意匠では複雑なものとなっているのに対し、イ号意匠及びロ号意匠ではシンプルなものとなっており、趣味感の点においても大きな相違がある。
4(一) ハ号意匠及びニ号意匠は、右3(一)のイ号意匠及びロ号意匠の具体的形状のうちa-<2>及びa-<3>が次のとおり異なるほかは、イ号意匠及びロ号意匠と同一である(別紙「ハ号・ニ号参考図」参照)。
a-<2> 操作部は、風量調節ダイヤル6及びシーソースイッチと、火力調節ダイヤル3及び温調表示器4等を具備する一対のコントロールパネル10、10とからなり、右一対のコントロールパネルは、調理台本体の正面上部に設けられた凹嵌部20の傾斜壁面の略全域を占めている。そして、凹嵌部の左側にドレンパン5が、その下側に右風量調節ダイヤル6が設けられている。
a-<3> 調理台本体の横幅、高さ(キャスターを除く)及び奥行の寸法比は、八・五対五・五対四・五である。
(二) ハ号意匠及びニ号意匠を本件登録意匠と対比すると、イ号意匠及びロ号意匠と本件登録意匠との相違点<1>ないし<6>のほかに、調理台本体の正面の横幅寸法が本件登録意匠のそれの約一・五五倍であり、本件登録意匠に比べて全体として扁平なプロポーションであること、凹嵌部20の横幅が長いこと、操作部の数が多いこと、それらの配置の態様が特徴的であること、サービス扉15がイ号意匠及びロ号意匠に比べて扁平なプロポーションであること、という相違点があるから、ハ号意匠及びニ号意匠は、イ号意匠及びロ号意匠よりいっそう本件登録意匠に類似しない。
5(一) ホ号意匠は、その基本的形状が本件登録意匠の基本的形状と共通しており、具体的形状は、次のとおりである(別紙「ホ号参考図」参照)。
a-<1> 調理台本体の正面は、部分的なブロック状凸部25及びハンドル等の突出部があるが、全体的には一様な平面で構成されている。
正面の上半部には、四行三列にわたる横長の空冷用鎧孔(「ルーバ」ともいう)24、24群と、その下方中央のドレンパン5、左側のガード付きサーモスタット31及び右側のブロック状凸部25とが設けられ、正面の下半部には、サービス扉15とこれの左側に風量調節ダイヤル6を具備した縦長板が設けられている。更に、凹嵌部20との間にインバータ用フィルター7によって閉塞された矩形の吸引口、凹嵌部20とグリドル板2との間に帯板部21が設けられている。
a-<2> 操作機能部は、風量調節ダイヤル6及びシーソースイッチとサーモスタット31の三つからなり、調理台本体の正面の左側中程の位置に上下に配置されている。また、サーモスタット31及びシーソースイッチは、そのつまみやボタンの下方にU字状のガードを備えている。
a-<3> 調理台本体の横幅、高さ(キャスターを除く)及び奥行の寸法比は、五・五対五・五対四・五である。
a-<4> 調理台本体の左右側面は、一様な無開口板で構成されている。
b グリドル板2の上面部外周を囲む三方の壁のうち、左右側壁は垂直壁面であり、背面壁は、傾斜壁面であり、その略全域にわたる範囲に矩形の吸気口が開口し、集塵機用フィルターによって閉塞されている。グリドル板2の上面前縁には回収溝23が形成されている。
c 天板は、イ号意匠及びロ号意匠と同様に、調理台本体の側面に沿うように折り畳むことができ、かつ取り外すことができる。
d フードは、強化ガラス板で構成され、一対の台形状の側板の上辺相互間及び後方(背面側)の傾斜辺相互間をそれぞれつなぐように二枚架設されている。
e フード部空間と調理プレート上面空間の横幅は同じに設定されている。
(二) ホ号意匠を本件登録意匠と対比すると、イ号意匠及びロ号意匠と本件登録意匠との相違点<3>における凹嵌部20の有無に基づく外観上の差異はないものの、代わりに空冷用鎧孔24、24群の有無による外観上の差異があり、これは右相違点<3>と同程度の趣味感の相違をもたらし、そして、その余の相違点は、イ号意匠及びロ号意匠と本件登録意匠との相違点と同様であるから、イ号意匠及びロ号意匠が前記のとおり本件登録意匠に類似しない以上、ホ号意匠もまた本件登録意匠に類似しない。
6 へ号意匠は、右5(一)のホ号意匠の構成a-<1>において「右側のブロック状凸部25」の代わりに「右側のサーモスタット31」が設けられている点、及び構成a-<2>において「風量調節ダイヤル6及びシーソースイッチとサーモスタット31の三つ」の代わりに「風量調節ダイヤル6とサーモスタット31、31の三つ」からなる点を除き、ホ号意匠と同一である(別紙「へ号参考図」参照)。
したがって、へ号意匠は、ホ号意匠と操作部の一部が異なるだけでこれと同じといってよいから、本件登録意匠に類似しない。
7(一) ト号意匠は、右5(一)のホ号意匠の具体的形状のうちa-<1>、a-<2>、a-<3>及びbが次のとおり異なるほかは、ホ号意匠と同一である(別紙「ト号参考図」参照)。
a-<1> 調理台本体の正面は、ブロック状凸部25及びハンドル等の突出部があるが、全体的には一様な平面で構成されている。
正面の上半部は、両端が縦長板によって挟まれた矩形平面域であり、この矩形平面域に、五行三列にわたる横長の空冷用鎧孔24、24群と、その下方中央のドレンパン5、左側のガード付きサーモスタット31及び右側の二つのブロック状凸部25、25とが設けられ、正面の下半部には、一対のサービス扉15、15が設けられている。また、右側の縦長板には風量調節ダイヤル6が設けられ、上下の中間位置にある横桟には一対のシーソースイッチが設けられている。
a-<2> 操作機能部は、風量調節ダイヤル6及び一対のシーソースイッチとサーモスタット31の四つからなり、調理台本体の正面の上部の左右に配置されている。また、サーモスタット31は、そのつまみの下方にU字状のガードを備えている。
a-<3> 調理台本体の横幅、高さ(キャスターを除く)及び奥行の寸法比は、八・五対五・五対四・五である。
b グリドル板2の上面部外周を囲む三方の壁のうち、左右側壁は垂直壁面であり、背面壁は、傾斜壁面であり、その略全域にわたる範囲に矩形の吸気口が開口し、集塵機用フィルターによって閉塞されている。グリドル板2の上面前縁には回収溝23が形成され、上面の左右側縁と左右側壁との間はスペーサ部24となっており、左側スペーサ部の前半部(手前側)は調味料入れとして機能する容器部241となっている。
(二) ト号意匠を本件登録意匠と対比すると、ホ号意匠と本件登録意匠との相違点と同じ相違点のほかに、調理台本体の正面の横幅寸法が本件登録意匠のそれの約一・五五倍であり、本件登録意匠に比べて全体として扁平なプロポーションであること、空冷用鎧孔24、24群の左右の配列域が長いこと、操作部の数が多いこと、それらの配置の態様が特徴的であること、サービス扉15が一対あり、ホ号意匠に比べて扁平なプロポーションであることという相違点があるから、ホ号意匠が本件登録意匠に類似しない以上、ト号意匠もまた本件登録意匠に類似しない。
8 チ号意匠は、右7(一)のト号意匠の構成a-<1>において「右側の二つのブロック状凸部25、25」の代わりに「右側のサーモスタット31、ブロック状凸部25」が設けられている点を除き、ト号意匠と同一である(別紙「チ号参考図」参照)。
したがって、チ号意匠は、ト号意匠と同様の理由により、本件登録意匠に類似しない。
9 リ号意匠は、右7(一)のト号意匠の構成a-<1>において「右側の二つのブロック状凸部25、25」の代わりに「サーモスタット31、31」が設けられている点を除き、ト号意匠と同一である(別紙「リ号参考図」参照)。
したがって、リ号意匠は、右8のチ号意匠と実質的に同一であるから、本件登録意匠に類似しない。
10 ヌ号意匠は、その基本的形状が本件登録意匠の基本的形状と共通しており、具体的形状は、次のとおりである(別紙「ヌ号参考図」参照)。
a-<1> 調理台本体の正面は、複数の操作つまみが部分的に突出するが、全体的には一様な平面で構成されている。
正面の上半部は、矩形板部の左右両端に縦長板が連設されており、矩形板部に三つの火力調節つまみ33、33、33と風量調節ダイヤル6の合計四つが左右に並設され、正面下半部は、一対のサービス扉15、15が設けられている。
a-<2> 操作機能部は、三つの火力調節つまみ33、33、33及び一つの風量調節ダイヤル6が、上下のほぼ中間位置に等間隔に左右に並設されている。
a-<3> 調理台本体の横幅、高さ(キャスターを除く)及び奥行の寸法比は、八・五対五・五対四・五である。
a-<4> 調理台本体の左右側面は、一様な無開口板で構成されている。
b 調理プレートは、棒状ヒーターを波形に曲成した前後に延びる棒状発熱部が左右に並設された火床からなるいわゆる串焼き用グリラーになっており、調理台本体上面の前縁から奥行寸法の約四分の一の範囲にだけ火床が形成されている。
調理台本体の上面部外周を囲む三方の壁のうち、左右側壁は垂直壁面であり、背面壁は、傾斜壁面であり、その略全域にわたる範囲に矩形の吸気口が開口し、集塵機用フィルターによって閉塞されている。上面前縁には、回収溝が形成されるとともに、上面の左右側縁と左右側壁との間はスペーサ部となっている。
c 天板は、イ号意匠及びロ号意匠と同様に、調理台本体の側面に沿うように折り畳むことができ、かつ取り外すことができる。
d フードは、強化ガラス板で構成され、一対の台形状の側板の上辺相互間及び後方(背面側)の傾斜辺相互間をそれぞれつなぐように二枚架設されている。
e フード部空間と調理プレート上面空間の横幅は同じである。
(二) ヌ号意匠を本件登録意匠と対比すると、プロポーションの点において大きな相違があり、正面形態においても、イ号意匠及びロ号意匠と本件登録意匠との相違と同程度の相違があり、フードの内周域の形態についても、イ号意匠及びロ号意匠等と同様な差異があり、特に調理台本体の上面の形態が本件登録意匠と決定的に相違する。また、ヌ号意匠では、調理面がいわゆる串焼き用のグリラーとなっており、前後に平行な棒状の発熱部が上面の前縁から一定範囲にだけ形成された特殊な構成である点で、一様な平板状の調理面からなる本件登録意匠とはその印象が大きく異なる。
したがって、ヌ号意匠もまた本件登録意匠に類似しない。
二 争点2(被告物件の製造販売等が本件意匠権を侵害するものである場合、被告会社の代表取締役である被告岡田は、商法二六六条の三に基づく損害賠償責任を負うか)について
【原告の主張】
被告岡田は、被告会社の代表取締役であり、その経営全般を掌握しているところ、被告会社が被告物件の製造販売等により本件意匠権を侵害していることを知悉し、しかも、原告から被告物件の製造販売等が本件意匠権の侵害になるとの警告を受けたにもかかわらず、被告物件の製造販売を継続させてきたものであるから、商法二六六条の三に基づき、本件意匠権の侵害により原告が被った損害を被告会社と連帯して賠償する責任がある。
【被告岡田の主張】
原告の主張は争う。
三 争点3(被告らが原告に対して損害賠償責任を負う場合に、原告に対して支払うべき損害金の額等)について
【原告の主張】
1 被告会社は、平成五年一二月二四日から平成九年三月一四日までの間、被告物件を製造、販売し、少なくとも合計三億八一四四万七五〇〇円の売上げを得た。
原告は、被告会社による右の本件意匠権侵害行為により、少なくとも本件登録意匠の実施料相当額の損害を被ったところ、本件登録意匠の実施料相当額は、商品の平均販売価格の七%を下回ることがないから、原告は、意匠法三九条二項に基づき、右売上金額三億八一四四万七五〇〇円の七%に当たる二六七〇万一三二五円の賠償を求めるものである。
2 被告会社の販売先は全国的な範囲に及び、しかもシテイホテルから一流ホテルまで層も広いところ、原告が営業活動を行う場合、原告の製品が被告物件と誤認混同されることが非常に多く、かつ、その期間も長期にわたっているため、顧客、代理店等には原告が被告物件を模倣しているとの思込みも生じている(甲一九)から、信用回復の手段として謝罪広告の掲載は必要不可欠である。
【被告らの主張】
1 被告会社は、原告主張の期間内に被告物件を合計四三台販売して、五一〇二万八八七〇円の売上げを得たが(乙第一九号証記載の合計四二台、四九七二万六八七〇円と平成八年三月二八日販売のチ号物件一台一三〇万二〇〇〇円の合計)、この台数、金額を超えては販売していない(平成八年四月一日以降は被告物件を一切販売していない)。
また、原告は、本件登録意匠の実施料相当額は平均販売価格の七%を下回ることがない旨主張するが、そのような証拠はない。むしろ、乙第二、第三号証、第一二ないし第一五号証の各1~3に示されているクッキングテーブル等の意匠権が存在すること、本件登録意匠の要部が天板の形状にあるとしても、前記一【被告らの主張】3ないし10のとおり、被告物件においては、天板は取り外すことができるものであって、それ自体の価格は被告物件の販売価格の一〇%以下であることからすると、本件登録意匠の実施料はせいぜい被告物件の販売価格の一%である。
2 原告の右2の主張は争う。
第四 争点に対する当裁判所の判断
一 争点1(被告意匠は、本件登録意匠に類似するものであるか)について
1(一) 甲第一号証(別添意匠公報<1>)によれば、本件登録意匠は、クッキングテーブルに係る意匠であって、その基本的構成態様は、調理台本体がほぼ直方体で、上端水平面からやや落ち込んだ位置に水平の調理プレートを、正面に操作部を備えており、背面及び左右側面に本体の上端から水平に張り出した四つのコーナーすべてが約四五度にカットされている天板を、底面の四隅に移動用のキャスターを備え、本体の左右側面に垂直に立ち上げられた台形状の各側板に両端を支持される形で透明のフードが調理プレート上に被さっているというものであり、その具体的構成態様は次のとおりであると認められる。
A 調理台本体の横幅、高さ(但し、キャスター部分を除外した天板までの本体の高さをいう。以下同じ)及び奥行(エプロンプレート部分を除く)の寸法比は、ほぼ一対一対〇・八である。
B 調理台本体の正面には、調理プレートの前縁から続いて天板の幅の二分の一程度の幅の横長のエプロンプレートが水平に張り出し、また、正面は中央の二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上半分の操作部には矩形枠内の中央に火力調節つまみが設けられている。
C 調理プレートの奥(背面側)には上方に向けて排気口が、左右側壁には内側に向けて吸気口が設けられている。
D 前記背面及び左右側面の天板は、一つの板状部材で構成されている。
E 前記調理プレート上に被さっているフードは、台形状の各側板の一つの斜辺に両端を支持される形で本体の背面から手前側へ斜め上方に延び、本体の奥行の背面側約二分の一(調理プレートの背面側三分の一強)を覆っている。
(二) ところで、意匠権による保護の対象となる意匠とは、物品の形状、模様等であって視覚を通じて美感を起こさせるものをいうから(意匠法二条一項)、意匠の類否判断は、物品の全体観察による総合判断によるべきであるが、その際、需要者の注意を強く惹く部分(要部)が大きなウエイトをもって評価されることになる。
本件登録意匠の意匠に係る物品であるクッキングテーブルは、底面に移動用のキャスターが取り付けられており、ホテル等のパーティ会場等において、調理者が客の面前で調理し、調理したての料理を提供することを目的としているものであることが明らかであるから(甲九ないし一三、一六)、あくまで調理台の一種であり、またその需要者はパーティ会場等を備えるホテル等ではあるものの、調理場の壁面等に背面を向けて固定して使用する通常の調理台とは異なり、パーティ会場等で使用しても会場の雰囲気を損なわず、あるいは客に違和感を与えないものであることが重要であり、したがって、需要者であるホテル等も客側の視点で観察した場合の美感を重要視するものと考えられる。しかして、本件登録意匠に係るクッキングテーブルを客が観察する場合、操作部のある正面を看ることはなく、背面あるいは側面から、しかも顔を近づけて細部を子細に観察するというようなことはなく、立った状態で斜め上方から観察することになるから、まず、その全体的な基本的構成態様、すなわち、調理台本体がほぼ直方体で、上端水平面からやや落ち込んだ位置に水平の調理プレートを、正面に操作部を備えており、背面及び左右側面に本体の上端から水平に張り出した四つのコーナーすべてが約四五度にカットされている天板を、底面の四隅に移動用キャスターを備え、本体の左右側面に垂直に立ち上げられた台形状の各側板に両端を支持される形で透明のフードが調理プレート上に被さっているという態様のものとして把握するものということができ、そして、かかる基本的構成態様を一体的に備えた意匠は、被告ら提出の証拠中の、本件登録意匠の出願(昭和六二年三月九日)前に日本国内で頒布された刊行物である乙第一号証(実公昭四六-五二四九号実用新案公報)、第五号証(実開昭六一-一五四八三五号公開実用新案公報)、第七号証の2(昭和六一年五月一三日登録第六八五〇一〇号意匠公報)、第九号証の1(昭和六一年六月一一日登録第六八八六一五号意匠公報)、第一〇号証の1(昭和六〇年一一月二九日登録第六七三五七五号意匠公報)、同号証の2(同日登録第六七三五七七号意匠公報)、同号証の3(同日登録第六七三五七七号の類似1意匠公報)、乙第一六号証添付の昭和五五年六月一六日特許庁受入れのスウェーデン国意匠公報二通、その他本件全証拠によるも、本件登録意匠の出願前に公知となっていたとは認められないから、右の基本的構成態様は、客の注意を強く惹くもの(要部)といわなければならず、また、本件登録意匠の先願(意匠法九条一項)に係る意匠公報(乙二、六の1・2、七の1・3、八の3、九の2~4)記載の意匠にも示されていない。とりわけ、天板は、調理した料理を盛りつけた皿が置かれ、客がそこから皿を適宜取るものであるから、天板の態様は客の注意を最も強く惹くものといわなければならない。
被告らは、本件登録意匠に係る物品はクッキングテーブルであり、重要視されるのは正面斜め上方から見たときの趣味感であり、そのときに看者が受ける印象であるから、本件登録意匠の要部は、上面の形態及び正面の形態並びにこれらの結合形態にあると主張するが、以上の説示に照らし、採用することができない。また、被告らは、乙第一号証(実公昭四六-五二四九号実用新案公報)には、本件登録意匠と同様な構成のフード付き調理台が示されており、乙第五号証(実開昭六一-一五四八三五号公開実用新案公報)によれば、調理台本体の上端にカウンター又はテーブルを張り出させることは本件登録意匠の出願前に周知であったのであるから、フード付きカウンター付きクッキングテーブルであるという物品の付加的部分の構成のみをもって意匠の要部とすることはできないとか、かかるフード付きカウンター付きクッキングテーブルとして限定されるだけの形態は、本件登録意匠の出願時に既に陳腐であったといってよいと主張するが、前記認定判断は、単に抽象的にフード付きカウンター付きクッキングテーブルというだけをもって要部とするものではなく、前記のような具体的な基本的構成態様をもって要部としているのであって、かかる基本的構成態様を一体的に備えた意匠は本件登録意匠の出願前に公知となっていたとは認められず、しかも、右乙第一号証記載の意匠におけるフードも、乙第五号証記載の意匠におけるカウンター(天板)も、本件登録意匠のフードや天板の形態とは著しく異なるものであるから、右主張も失当というべきである。更に、審査の実例を引用しての主張、その他前記説示に反する被告らの主張は、いずれも採用することができない。
2(一) イ号意匠及びロ号意匠は、いずれも本件登録意匠の意匠に係る物品であるクッキングテーブルと実質的に同一であるグリドルテーブルに係る意匠であって、別紙イ号図面及びロ号図面、甲第一一号証並びに弁論の全趣旨によれば、電気容量、加熱出力等が異なるのみで、意匠としては全く同一であるところ、その基本的構成態様は、調理台本体がほぼ直方体で、上端水平面からやや落ち込んだ位置に水平の調理プレートを、正面に操作部を備えており、背面及び左右側面に本体の上端から水平に張り出した四つのコーナーすべてが約四五度にカットされている天板を、底面の四隅に移動用のキャスターを備え、本体の左右側面に垂直に立ち上げられた台形状の各側板に両端を支持される形で透明のフードが調理プレート上に被さっているというものであり、その具体的構成態様は次のとおりであると認められる。
a 調理台本体の横幅、高さ及び奥行の寸法比は、ほぼ一対一・一対〇・九である。
b 調理台本体の正面は下から約三分の一の位置にある二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上三分の二の操作部には、各種ランプ・スイッチ・ダイヤルを備えた斜めに入り込んだ操作盤、風量調節ダイヤル、インバータ用フィルター、ドレンパンが設けられ、また、下三分の一には、二枚扉が設けられている。
c 調理プレートの奥(背面側)に斜め上方に向けて集塵機用フィルター付きの吸気口が設けられている。
d 前記背面及び左右側面の天板は、背面天板一枚と側天板二枚に三分割された板状部材で構成され、それぞれL字型金具により本体に取り付けられており、水平状態から下方垂直方向へ九〇度折り畳むことができ、かつ取り外すことができる。
e 前記調理プレート上に被さっているフードは、台形状の各側板の一つの斜辺及び上辺に両端を支持される形で本体の背面から手前側へ斜め上方に、更に水平に延び、本体の奥行の背面側約三分の二(調理プレートの背面側約三分の二)を覆っている。
(二) イ号意匠及びロ号意匠を本件登録意匠と対比すると、
基本的構成態様が共通するほか、
調理台本体の横幅、高さ及び奥行の寸法比は、本件登録意匠の具体的構成態様Aではほぼ一対一対〇・八であり、イ号意匠及びロ号意匠の具体的構成態様aではほぼ一対一・一対〇・九であって、近似しており、
<1> 本件登録意匠の具体的構成態様Bでは、調理台本体の正面には、調理プレートの前縁から続いて天板の幅の二分の一程度の幅の横長のエプロンプレートが水平に張り出し、また、正面は中央の二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上半分の操作部には矩形枠内の中央に火力調節つまみが設けられているのに対し、イ号意匠及びロ号意匠の具体的構成態様bでは、調理台本体の正面は下から約三分の一の位置にある二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上三分の二の操作部には、各種ランプ・スイッチ・ダイヤルを備えた斜めに入り込んだ操作盤、風量調節ダイヤル、インバータ用フィルター、ドレンパンが設けられ、また、下三分の一には、二枚扉が設けられている、
<2> 本件登録意匠の具体的構成態様Cでは、調理プレートの奥(背面側)には上方に向けて排気口が、左右側壁には内側に向けて吸気口が設けられているのに対し、イ号意匠及びロ号意匠の具体的構成態様cでは、調理プレートの奥(背面側)に斜め上方に向けて集塵機用フィルター付きの吸気口が設けられている、
<3> 背面及び左右側面の天板は、本件登録意匠の具体的構成態様Dでは、一つの板状部材で構成されているのに対し、イ号意匠及びロ号意匠の具体的構成態様dでは、背面天板一枚と側天板二枚に三分割された板状部材で構成され、それぞれL字型金具により本体に取り付けられており、水平状態から下方垂直方向へ九〇度折り畳むことができ、かつ取り外すことができる、
<4> 調理プレート上に被さっているフードは、本件登録意匠の具体的構成態様Eでは、台形状の各側板の一つの斜辺に両端を支持される形で本体の背面から手前側へ斜め上方に延び、本体の奥行の背面側約二分の一(調理プレートの背面側三分の一強)を覆っているのに対し、イ号意匠及びロ号意匠の具体的構成態様eでは、台形状の各側板の一つの斜辺及び上辺に両端を支持される形で本体の背面から手前側へ斜め上方に、更に水平に延び、本体の奥行の背面側約三分の二(調理プレートの背面側約三分の二)を覆っている、
という点において相違していることが認められる。
右のとおり、イ号意匠及びロ号意匠は、本件登録意匠の要部である基本的構成態様において本件登録意匠と共通するほか、調理台本体の横幅、高さ及び奥行の寸法比が本件登録意匠のそれと近似している。
これに対し、相違点<1>は、調理台本体の正面に関するものであって、客側の視点で観察した場合、目につくことはほとんどないところであるのみならず(イ号意匠及びロ号意匠にはなくて本件登録意匠にはあるエプロンプレートも、調理台本体の上端水平面からやや落ち込んだ位置にある調理プレートの前縁から続いて水平に張り出したものであり、しかも、天板の幅の二分の一程度の幅であるから、目につきにくい)、調理台本体の正面が二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上側が操作部になっているという大枠の点では一致しており、その操作部において各種ランプやスイッチ、ダイヤル等をどのように配列するかは意匠の観点からは適宜選択しうる事項であるから、右相違点は看者の注意を惹かないというべきである。相違点<2>は、調理台本体の上面に関するものであって、調理プレートの奥(背面側)に上方に向けて設けられた排気口(本件登録意匠)と斜め上方に向けて設けられた集塵機用フィルター付きの吸気口(イ号意匠及びロ号意匠)は客側の視点ではほとんど見えないといってよく、本件登録意匠における左右側壁に内側に向けて設けられた吸気口も同様である。相違点<3>は、調理台本体の背面及び左右側面に設けられた天板の態様に関するものであるが、天板が一つの板状部材で構成されているか(本件登録意匠)、背面天板一枚と側天板二枚に三分割された板状部材で構成されているか(イ号意匠及びロ号意匠)は、使用状態においては、客に与える印象の差異は小さいものであり、イ号意匠及びロ号意匠においては更に折り畳み・取外しが可能であるということも、使用状態においてはほとんど認識されないものである。相違点<4>は、調理プレート上に被さっているフードの態様に関するものであって、イ号意匠及びロ号意匠では、本件登録意匠におけるように台形状の各側板に両端を支持される形で本体の背面から手前側へ斜め上方に延びているだけでなく、更に水平に延びており、その結果、上面を覆う範囲が、本件登録意匠においては本体の奥行の背面側約二分の一(調理プレートの背面側三分の一強)であるのに対して本体の奥行の背面側約三分の二(調理プレートの背面側約三分の二)であるというように広いというのであるが、客側の視点では、透明のフードが本体の背面から手前側へ斜め上方に延びて上面を覆つているという点は強い印象を与えるが、透明のフードが更に水平に延びているとか、上面を覆う範囲が右の程度広いという点が与える印象は弱いものというべきである。
したがって、イ号意匠及びロ号意匠と本件登録意匠との前記相違点<1>ないし<4>がもたらす印象の差異は小さいものであり、イ号意匠及びロ号意匠が前記のように本件登録意匠の要部である基本的構成態様を備えていることによりもたらされる本件登録意匠と共通の印象は、右相違点がもたらす印象の差異を凌駕し、全体として観察しても本件登録意匠と共通の美感を起こさせるものというべきであるから、イ号意匠及びロ号意匠は本件登録意匠に類似するというべきである。
3(一) ハ号意匠及びニ号意匠は、別紙ハ号図面及びニ号図面、甲第一一号証並びに弁論の全趣旨によれば、電気容量、加熱出力等が異なるのみで、意匠としては全く同一であるところ、その基本的構成態様は、イ号意匠及びロ号意匠の基本的構成態様と同一であり、その具体的構成態様は、具体的構成態様a及びbが次のとおりであるほかは、イ号意匠及びロ号意匠と同一であると認められる。
a 調理台本体の横幅、高さ及び奥行の寸法比は、ほぼ一対〇・八対〇・六である。
b 調理台本体の正面は下から約三分の一の位置にある二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上三分の二の操作部には、各種ランプ・スイッチ・ダイヤルを備えた斜めに入り込んだ操作盤、インバータ用フィルターが二つずつ、風量調節ダイヤル、ドレンパンが一つずつ設けられ、また、下三分の一には、二枚扉が設けられている。
(二) ハ号意匠及びニ号意匠は、右のように具体的構成態様a及びbがイ号意匠及びロ号意匠と異なるほかは、イ号意匠及びロ号意匠と同一であるから、ハ号意匠及びニ号意匠を本件登録意匠と対比すると、本件登録意匠の要部である基本的構成態様において共通し、イ号意匠及びロ号意匠の場合と比べて、調理台本体の横幅、高さ及び奥行の寸法比(ほぼ一対〇・八対〇・六)が本件登録意匠のそれ(ほぼ一対一対〇・八)と近似しているとはいえなくなり、また、相違点<1>が、本件登録意匠の具体的構成態様Bでは、調理台本体の正面には、調理プレートの前縁から続いて天板の幅の二分の一程度の幅の横長のエプロンプレートが水平に張り出し、また、正面は中央の二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上半分の操作部には矩形枠内の中央に火力調節つまみが設けられているのに対し、ハ号意匠及びニ号意匠の具体的構成態様bでは、調理台本体の正面は下から約三分の一の位置にある二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上三分の二の操作部には、各種ランプ・スイッチ・ダイヤルを備えた斜めに入り込んだ操作盤、インバーター用フィルターが二つずつ、風量調節ダイヤル、ドレンパンが一つずつ設けられ、また、下三分の一には、二枚扉が設けられている、ということになり、その余の相違点<2>ないし<4>はイ号意匠及びロ号意匠の場合と同じということになる。
そして、調理台本体の横幅、高さ及び奥行の寸法比が本件登録意匠のそれと近似していないとの点は、主として調理台本体の横幅が本件登録意匠と比べて長いことによるものであるところ、調理台本体の横幅は、クッキングテーブルを使用する会場の大きさやパーティ客の人数、調理する料理の種類によって適宜選択されるものであって、美感に及ぼす影響は小さいものといわなければならない。また、右相違点<1>は、イ号意匠及びロ号意匠と本件登録意匠との相違点<1>と同様の理由により、看者の注意を惹かないというべきである。その余の相違点<2>ないし<4>については、イ号意匠及びロ号意匠について説示したところと同じである。
したがって、ハ号意匠及びニ号意匠と本件登録意匠との相違点がもたらす印象の差異は小さいものであり、ハ号意匠及びニ号意匠が前記のように本件登録意匠の要部である基本的構成態様を備えていることによりもたらされる本件登録意匠と共通の印象は、右相違点がもたらす印象の差異を凌駕し、全体として観察しても本件登録意匠と共通の美感を起こさせるものというべきであるから、ハ号意匠及びニ号意匠は本件登録意匠に類似するというべきである。
4(一) ホ号意匠は、別紙ホ号図面、甲第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、その基本的構成態様は、イ号意匠及びロ号意匠の基本的構成態様と同一であり、その具体的構成態様は、具体的構成態様bが次のとおりであるほかは、イ号意匠及びロ号意匠と同一であると認められる。
b 調理台本体の正面は中央の二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上半分の操作部には、サーモスタット、ドレンパン、ブロック状凸部が、その上に四行三段の空冷用鎧孔がそれぞれ設けられ、下半分には、一枚扉、風量調節ダイヤルが設けられている。
(二) ホ号意匠は、右のように具体的構成態様bがイ号意匠及びロ号意匠と異なるほかは、イ号意匠及びロ号意匠と同一であるから、ホ号意匠を本件登録意匠と対比すると、本件登録意匠の要部である基本的構成態様において共通するほか、調理台本体の横幅、高さ及び奥行の寸法比が本件登録意匠のそれと近似し、イ号意匠及びロ号意匠の場合と比べて、相違点<1>が、本件登録意匠の具体的構成態様Bでは、調理台本体の正面には、調理プレートの前縁から続いて天板の幅の二分の一程度の幅の横長のエプロンプレートが水平に張り出し、また、正面は中央の二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上半分の操作部には矩形枠内の中央に火力調節つまみが設けられているのに対し、ホ号意匠の具体的構成態様bでは、調理台本体の正面は中央の二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上半分の操作部には、サーモスタット、ドレンパン、ブロック状凸部が、その上に四行三段の空冷用鎧孔がそれぞれ設けられ、また、下半分には、一枚扉、風量調節ダイヤルが設けられている、ということになり、その余の相違点<2>ないし<4>はイ号意匠及びロ号意匠の場合と同じということになる。
そして、右相違点<1>は、イ号意匠及びロ号意匠と本件登録意匠との相違点<1>と同様の理由により、看者の注意を惹かないというべきである。その余の相違点<2>ないし<4>については、イ号意匠及びロ号意匠について説示したところと同じである。
したがって、ホ号意匠と本件登録意匠との相違点がもたらす印象の差異は小さいものであり、ホ号意匠が前記のように本件登録意匠の要部である基本的構成態様を備えていることによりもたらされる本件登録意匠と共通の印象は、右相違点がもたらす印象の差異を凌駕し、全体として観察しても本件登録意匠と共通の美感を起こさせるものというべきであるから、ホ号意匠は本件登録意匠に類似するというべきである。
5(一) へ号意匠は、別紙へ号図面、甲第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、その基本的構成態様は、イ号意匠及びロ号意匠の基本的構成態様と同一であり、その具体的構成態様は、具体的構成態様bが次のとおりであるほかは、イ号意匠及びロ号意匠と同一であると認められる。
b ホ号意匠の具体的構成態様bにおいて、「サーモスタット、ドレンパン、ブロック状凸部」に代えて「サーモスタット二つ、ドレンパン」とする点を除き、ホ号意匠の具体的構成態様bと同一である。
(二) したがって、へ号意匠は、ホ号意匠と同様の理由により、本件登録意匠に類似するというべきである。
6(一) ト号意匠は、別紙ト号図面、甲第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、その基本的構成態様は、イ号意匠及びロ号意匠の基本的構成態様と同一であり、その具体的構成態様は、具体的構成態様a及びbが次のとおりであるほかは、イ号意匠及びロ号意匠と同一であると認められる。
a 調理台本体の横幅、高さ及び奥行の寸法比は、ほぼ一対〇・七対〇・六である。
b 調理台本体の正面は中央の二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上半分の操作部には、サーモスタット、ドレンパン、ブロック状凸部二つが、その上に五行三段の空冷用鎧孔が、その横に風量調節ダイヤルがそれぞれ設けられ、また、下半分には、二枚扉が設けられている。
(二) ト号意匠は、右のように具体的構成態様a及びbがイ号意匠及びロ号意匠と異なるほかは、イ号意匠及びロ号意匠と同一であるから、ト号意匠を本件登録意匠と対比すると、本件登録意匠の要部である基本的構成態様において共通し、イ号意匠及びロ号意匠の場合と比べて、調理台本体の横幅、高さ及び奥行の寸法比(ほぼ一対〇・七対〇・六)が本件登録意匠のそれ(ほぼ一対一対〇・八)と近似しているとはいえなくなり、また、相違点<1>が、本件登録意匠の具体的構成態様Bでは、調理台本体の正面には、調理プレートの前縁から続いて天板の幅の二分の一程度の幅の横長のエプロンプレートが水平に張り出し、また、正面は中央の二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上半分の操作部には矩形枠内の中央に火力調節つまみが設けられているのに対し、ト号意匠の具体的構成態様bでは、調理台本体の正面は中央の二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上半分の操作部には、サーモスタット、ドレンパン、ブロック状凸部二つが、その上に五行三段の空冷用鎧孔が、その横に風量調節ダイヤルがそれぞれ設けられ、また、下半分には、二枚扉が設けられている、ということになり、その余の相違点<2>ないし<4>はイ号意匠及びロ号意匠の場合と同じということになる。
したがって、ト号意匠は、ハ号意匠及びニ号意匠と同様の理由により、本件登録意匠に類似するというべきである。
7(一) チ号意匠は、別紙チ号図面、甲第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、その基本的構成態様は、イ号意匠及びロ号意匠の基本的構成態様と同一であり、その具体的構成態様は、具体的構成態様a及びbが次のとおりであるほかは、イ号意匠及びロ号意匠と同一であると認められる。
a ト号意匠と同一である。
b ト号意匠の具体的構成態様bにおいて、「サーモスタット、ドレンパン、ブロック状凸部二つ」に代えて「サーモスタット二つ、ドレンパン、ブロック状凸部」とする点を除き、ト号意匠の具体的構成態様bと同一である。
(二) チ号意匠は、右のようにト号意匠の具体的構成態様bにおいて「サーモスタット、ドレンパン、ブロック状凸部二つ」に代えて「サーモスタット二つ、ドレンパン、ブロック状凸部」とする点を除き、ト号意匠と同一であるから、ト号意匠と同様の理由により、本件登録意匠に類似するというべきである。
8(一) リ号意匠は、別紙リ号図面、甲第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、その基本的構成態様は、イ号意匠及びロ号意匠の基本的構成態様と同一であり、その具体的構成態様は、具体的構成態様a及びbが次のとおりであるほかは、イ号意匠及びロ号意匠と同一であると認められる。
a ト号意匠と同一である。
b ト号意匠の具体的構成態様bにおいて、「サーモスタット、ドレンパン、ブロック状凸部二つ」に代えて「サーモスタット三つ、ドレンパン」とする点を除き、ト号意匠の具体的構成態様bと同一である。
(二) リ号意匠は、右のようにト号意匠の具体的構成態様bにおいて「サーモスタット、ドレンパン、ブロック状凸部二つ」に代えて「サーモスタット三つ、ドレンパン」とする点を除き、ト号意匠と同一であるから、ト号意匠と同様の理由により、本件登録意匠に類似するというべきである。
9(一) ヌ号意匠は、本件登録意匠の意匠に係る物品であるクッキングテーブルと実質的に同一であるグリラーテーブルに係る意匠であって、別紙ヌ号図面、甲第一四号証及び弁論の全趣旨によれば、その基本的構成態様は、イ号意匠及びロ号意匠と同一であり、その具体的構成態様は、具体的構成態様a、b及びcが次のとおりであるほかは、イ号意匠及びロ号意匠と同一であると認められる。
a ト号意匠と同一である。
b 調理台本体の正面は下から約三分の一の位置にある二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上三分の二の操作部には、矩形枠内に火力調節つまみが三つ、その横に風量調節ダイヤルが設けられ、また、下三分の一には、二枚扉が設けられている。
c 調理プレートの手前(正面)側約四分の一は棒状ヒーターを波形に屈曲した火床になっており、調理プレートの奥(背面側)に斜め上方に向けて集塵機用フィルター付きの吸気口が設けられている。
(二) ヌ号意匠は、右のように具体的構成態様a、b及びcがイ号意匠及びロ号意匠と異なるほかは、イ号意匠及びロ号意匠と同一であるから、ヌ号意匠を本件登録意匠と対比すると、本件登録意匠の要部である基本的構成態様において共通し、イ号意匠及びロ号意匠の場合と比べて、調理台本体の横幅、高さ及び奥行の寸法比(ほぼ一対〇・七対〇・六)が本件登録意匠のそれ(ほぼ一対一対〇・八)と近似しているとはいえなくなり、また、相違点<1>が、本件登録意匠の具体的構成態様Bでは、調理台本体の正面には、調理プレートの前縁から続いて天板の幅の二分の一程度の幅の横長のエプロンプレートが水平に張り出し、また、正面は中央の二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上半分の操作部には矩形枠内の中央に火力調節つまみが設けられているのに対し、ヌ号意匠の具体的構成態様bでは、調理台本体の正面は下から約三分の一の位置にある二本の横線により大きく上下二つに分けられ、その上三分の二の操作部には、矩形枠内に火力調節つまみが三つ、その横に風量調節ダイヤルが設けられ、また、下三分の一には、二枚扉が設けられている、ということになり、相違点<2>が、本件登録意匠の具体的構成態様Cでは、調理プレートの奥(背面側)には上方に向けて排気口が、左右側壁には内側に向けて吸気口が設けられているのに対し、ヌ号意匠の具体的構成態様cでは、調理プレートの手前(正面)側約四分の一は棒状ヒーターを波形に屈曲した火床になっており、調理プレートの奥(背面側)に斜め上方に向けて集塵機用フィルター付きの吸気口が設けられている、ということになり、その余の相違点<3>及び<4>はイ号意匠及びロ号意匠の場合と同じということになる。
そして、調理台本体の横幅、高さ及び奥行の寸法比が本件登録意匠のそれと近似していないとの点は、前示のとおり、主として調理台本体の横幅が本件登録意匠と比べて長いことによるものであるところ、調理台本体の横幅は、クッキングテーブルを使用する会場の大きさやパーティ客の人数、調理する料理の種類によって適宜選択されるものであって、美感に及ぼす影響は小さいものといわなければならない。また、右相違点<1>は、イ号意匠及びロ号意匠と本件登録意匠との相違点<1>と同様の理由により、看者の注意を惹かないというべきである。相違点<2>は、ヌ号意匠においては調理プレートの手前(正面)側約四分の一は棒状ヒーターを波形に屈曲した火床になっているという点を含め、客側の視点では注意を惹かないというべきである。その余の相違点<3>及び<4>については、イ号意匠及びロ号意匠について説示したところと同じである。
したがって、ヌ号意匠と本件登録意匠との相違点がもたらす印象の差異は小さいものであり、ヌ号意匠が前記のように本件登録意匠の要部である基本的構成態様を備えていることによりもたらされる本件登録意匠と共通の印象は、右相違点がもたらす印象の差異を凌駕し、全体として観察しても本件登録意匠と共通の美感を起こさせるものというべきであるから、ヌ号意匠は本件登録意匠に類似するというべきである。
10 以上のとおり、被告意匠は、いずれも本件登録意匠に類似しているというべきであるから(被告意匠の基本的・具体的形態、具体的形態における本件登録意匠との差異、本件登録意匠との類否についての被告らの主張は、以上の説示に反する限度で採用することができない)、被告が被告物件を製造、販売することは、本件意匠権を侵害することになる。
したがって、被告会社に対し、意匠法三七条一項に基づき被告物件の製造、譲渡又は展示の差止めを求める原告の請求は理由があるというべきである。また、同条二項に基づき被告会社の本店、営業所及び工場並びに別紙販売先一覧表記載の場所に存する被告物件(完成品)及びその半製品の廃棄を求める原告の請求は、被告会社の本店、営業所及び工場に存するイ号ないしリ号物件(完成品)及びその半製品の廃棄を求める限度で理由があり、その余は理由がないというべきである。けだし、ヌ号物件については、被告会社が製造、販売するおそれはあるものの、現にこれを製造し、所有、占有していると認めるに足りる証拠はなく、また、別紙販売先一覧表記載の場所に存する被告物件については、その所有権は既に販売先に移転しており、被告会社は処分権を有していないと解されるからである。
更に、被告会社は、被告物件を製造、販売して本件意匠権を侵害したことにより原告の被った損害を賠償すべき責任を負うといわなければならない。
二 争点2(被告物件の製造譲渡等が本件意匠権を侵害するものである場合、被告会社の代表取締役である被告岡田は、商法二六六条の三に基づく損害賠償責任を負うか)について
1 原告は、被告岡田は、被告会社の代表取締役であり、その経営全般を掌握しているところ、被告会社が被告物件の製造販売等により本件意匠権を侵害していることを知悉し、しかも、原告から被告物件の製造販売等が本件意匠権の侵害になるとの警告を受けたにもかかわらず、被告物件の製造販売を継続させてきたものであるから、商法二六六条の三に基づき、本件意匠権の侵害により原告の被った損害を被告会社と連帯して賠償する責任がある、と主張する。
証拠(甲三ないし七、乙九)によれば、原告は、被告会社に対し、平成六年六月一五日付警告書により、被告意匠は本件登録意匠に類似するとして、被告物件の販売を中止するよう求めたこと、これに対し、被告会社は、同年七月一五日付回答書により、被告意匠は本件登録意匠とは具体的な点で種々差異があり、特に本件登録意匠の先願に係る意匠登録第七六四七二八号(乙二)の意匠とは類似しないとして本件登録意匠が登録されていることを勘案すると、右相違は無視できないものともいえるが、原告の本件登録意匠に係る物品に関する開発努力及び本件意匠権を十分に尊重して、被告物件の生産を中止することにした旨回答したこと、しかし、被告会社は、その後も被告物件の製造販売を継続したことが認められる。
一般にある意匠が登録意匠と類似するか否かについては、微妙な判断を必要とされるところ、被告意匠が本件登録意匠に類似することは、明々白々であるとまでいうことはできず、類似しないとする被告らの主張も、結局当裁判所の採用するところとはならなかったものの、被告らの主張としては一応ありうるものであるから、被告会社が原告から警告を受けながら、その後も被告物件の製造販売を継続したからといって、被告岡田が被告会社の代表取締役としての職務を行うにつき商法二六六条の三にいう悪意又は重大な過失があったとまでいうことはできない(被告会社が、被告物件の生産を中止することにした旨回答しておきながら、その後も被告物件の製造販売を継続したことは、不誠実の感がないでもないが、右回答により、被告物件を製造販売しない旨法的拘束力ある約束をしたとまでは認められない)。
2 したがって、被告岡田に対し、商法二六六条の三に基づき、被告会社による本件意匠権侵害の行為により原告の被った損害の賠償を求める請求は、理由がないといわなければならない。
三 争点3(被告らが原告に対して損害賠償責任を負う場合に、原告に対して支払うべき損害金の額等)について
1 乙第一九号証及び弁論の全趣旨によれば、原告主張の、本件意匠権の登録日である平成五年一二月二四日から平成九年三月一四日までの間に、被告会社は、イ号物件を三台、ロ号物件を二台、ハ号物件を一台、ニ号物件を六台、ホ号物件を五台、ヘ号物件を五台、チ号物件を一一台、リ号物件を一〇台の合計四三台を製造、販売したことが、また、甲第一五号証によれば、平成六年四月一日現在における被告物件の定価は、それぞれイ号物件二〇三万八〇〇〇円、ロ号物件二〇九万八〇〇〇円、ハ号物件二七二万八〇〇〇円、ニ号物件二八四万八〇〇〇円、ホ号物件・ヘ号物件一六二万五〇〇〇円、チ号物件・リ号物件二一七万円であることがそれぞれ認められ、被告会社が右台数を超えて被告物件を製造、販売し、あるいは現実にト号物件を販売し、ヌ号物件を製造、販売したとの事実、被告物件の定価が右金額を超えるとの事実を認めるに足りる証拠はない。そして、本件登録意匠の内容、弁論の全趣旨によれば、本件登録意匠の実施に対し通常受けるべき金銭の額は販売価格の五%と認めるのが相当である。
被告らは、乙第二、第三号証、第一二ないし第一五号証の各1~3に示されているクッキングテーブル等の意匠権が存在すること、本件登録意匠の要部が天板の形状にあるとしても、被告物件においては、天板は取り外すことができるものであって、それ自体の価格は被告物件の販売価格の一〇%以下であることからすると、本件登録意匠の実施料はせいぜい被告物件の販売価格の一%である旨主張するが、右乙号各証の存在が本件登録意匠の価値を低下させるものとはいえず、また、仮に天板自体の価格は被告物件の販売価格の一〇%以下であるとしても、前示のとおり本件登録意匠の要部は天板だけでなく、全体的な基本的構成態様にあるというのみならず、天板があることにより、調理した料理を盛りつけた皿をその上に置くことができ、別にテーブルを用意する必要がないという点で調理台本体の価値を高めるものであり、天板の取外しができるからといって、その価値が減殺されるものではないから、被告らの主張は採用することができない。
また、右乙第一九号証及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、被告物件を定価よりも低い価額で販売しており、そのため前記のような被告物件の販売により得た売上額は五一〇二万八八七〇円にとどまることが認められるが、一般に、登録意匠の実施料を決めるに当たっては、定価を基準にするのが合理的であると考えられるので、意匠法三九条二項にいう「通常受けるべき金銭の額」を算定するに当たっても、定価を基準にするのが相当である。
したがって、原告は、本件登録意匠の実施に対し通常、四五九万七三〇〇円{〔(2,038,000×3)+(2,098,000×2)+(2,728,000×1)+(2,848,000×6)+(1,625,000×5+(1,625,000×5)+(2,170,000×11)+(2,170,000×10)〕×0.05}を受けることができたと認められるので、意匠法三九条二項に基づき、被告会社に対して、本件意匠権の侵害により原告の被った損害の額としてこれと同額の賠償を請求することができることになる。すなわち、原告の被告会社に対する損害賠償請求は、右の限度で理由があり、これを超える部分は理由がないというべきである。
2 更に、原告は、意匠法四一条、特許法一〇六条に基づき、被告会社に対して、信用回復の措置として謝罪広告の掲載を求め、被告会社の販売先は全国的な範囲に及び、しかもシティホテルから一流ホテルまで層も広いところ、原告が営業活動を行う場合、原告の製品が被告物件と誤認混同されることが非常に多く、かつ、その期間も長期にわたっているため、顧客、代理店等には原告が被告物件を模倣しているとの思込みも生じている(甲一九)から、信用回復の手段として謝罪広告の掲載は必要不可欠であると主張するが、甲第一九号証その他本件全証拠によるも、被告会社が被告物件を製造、販売したことにより、具体的に原告の業務上の信用を害し、金銭賠償では賄えない信用上の損害を与えたとの事実は認められないので、原告の右請求は理由がないといわなければならない。
第五 結論
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)
イ号図面
<省略>
ロ号図面
<省略>
ハ号図面
<省略>
ニ号図面
<省略>
ホ号図面
<省略>
ヘ号図面
<省略>
ト号図面
<省略>
チ号図面
<省略>
リ号図面
<省略>
ヌ号図面
<省略>
販売先一覧表
販売先 販売商品 台数
一 富士ロイヤルプラザホテル静岡県富士市水戸島二九〇-一 EGT-9-SL6 チ 一台
二 パレスホテル立川立川市曙町二丁目四〇-一五 EGT-6-SL3 ホGKT-8-SL ヌ 二台二台
三 KKRホテル東京千代田区大手町一丁目四-一 EGT-9-SL9 リ 一台
謝罪広告
今般当社に於いて製造しておりました厨房機
当社品番 MIGT-3・MIGT-5・MIGT-3W・MIGT-5W
(商品名 〔電磁〕無煙式グリドルテーブル/ステーキ)
当社品番 EGT-6-SL3・EGT-6-SL6・EGT-9-SL3・EGT-9-SL6・EGT-9-SL9
(商品名 〔電気〕無煙式グリドルテーブル/ステーキ)
当社品番 GKT-8-SL
(商品名 〔電気〕無煙式グリラーテーブル/焼鳥・シーフード)
は、当社から一般に販売されておりましたが、同製品は元来山岡金属工業株式会社(本社・守口市東郷通り二丁目二一番地)が、その一切の意匠権を有しているものであり、今回の当社の行為は右権利を侵害し、山岡金属工業株式会社の信用を大きく毀損するものであり、同社に多大なる迷惑をおかけしたことを認め、ここに謹んで山岡金属工業株式会社に対し謝罪し、今後二度とかような不法行為を繰り返さないことを固く誓約致します。
平成 年 月 日
兵庫県三田市テクノパーク一二番地の五
ニチワ電機株式会社
右代表者代表取締役 岡田徹
山岡金属工業株式会社殿
掲載条件
一、掲載誌
日本経済新聞の全国版
二、大きさ
大きさ 天地二段、左右二〇センチメートル
掲載場所 社会面広告欄
使用する活字 見出し、宛名及び被告の氏名は五号活字その他は六号活字
三、掲載回数
朝刊に一回掲載すること。
意匠公報<1>
(19)日本国特許庁 (11)登録意匠番号
(45)平成6年(1994)3月23日発行 (12)意匠公報(S) 894408
(52)C6-450
(21)意願 平3-14434 (22)出願 昭62(1987)3月9日 前実用新案出願日援用
(24)登録 平5(1993)12月24日
(72)創作者 山岡正美 大阪府守口市東郷通2丁目21番地 山岡金属工業株式会社内
(73)意匠権者 山岡金属工業株式会社 大阪府守口市東郷通2丁目21番地
(74)代理人 弁理士 中村恒久
審査官 水野みな子
(54)意匠に係る物品 クツキングテーブル
(55)説明 本物品は、使用時の油煙の流れを示す参考図のように、ガラス製誘導板1を調理熱板2の上方を覆うように形成し、コンロ3および被調理物4から発生した油煙等を誘導板1に衝突させて誘導板1に沿つて吸気口5へ案内し、吸気口5からフアン6にて吸気路7へ吸込ませて吸気浄化装置8へ送り込み、フアン6から排気路9へ送り込んで、側面の上部排気口10と底面の下部排気口11から排出する.図面中、透明部分を表わす平面図の薄墨部分は透明である.左側面図は右側面図と対称にあらわれる.
<省略>
<省略>
意匠公報<2>
(19)日本国特許庁 (11)登録意匠番号
(45)平成6年(1994)9月12日発行 (12)意匠公報(S) 894408の類似1
(52)C6-450類似
(21)意願 平4-29955 (22)出願 平4(1992)2月4日
(24)登録 平6(1994)6月8日
(72)創作者 山岡正美 大阪府守口市東郷通2丁目21番地 山岡金属工業株式会社内
(73)意匠権者 山岡金属工業株式会社 大阪府守口市東郷通2丁目21番地
(74)代理人 弁理士 中村恒久
審査官 水野みな子
(54)意匠に係る物品 クツキングテーブル
(55)説明 本物品は、使用時の油煙の流れを示す参考図のように、ガラス製誘導板1を調理鉄板2の上方を覆うように形成し、2組の磁力発生コイル3aおよび3bからなる電磁誘導加然器によつて鉄板2を加熱し、加熱された被調理物4から発生した油煙等を誘導板1に衝突させて誘導板1に沿つて吸気口5へ案内し、吸気口5からフアン6にて吸気路7へ吸込ませて吸気浄化装置8へ送り込み、フアン6から排気路9へ送り込んで、側面の上部排気口10と底面の下部排気口11から排出する.図面中、透明部分を表わす平面図の薄墨部分は透明である.左側面図は右側面図と対称にあらわれる.
<省略>
<省略>
イ号、ロ号参考図
<省略>
ハ号、ニ号参考図
<省略>
ホ号参考図
<省略>
ヘ号参考図
<省略>
ト号参考図
<省略>
チ号参考図
<省略>
リ号参考図
<省略>
ス号参考図
<省略>
意匠公報
<省略>
<省略>
意匠公報
<省略>
<省略>